「香りとうまみと科学が導く、ビリヤニの頂点へ」

13  ビリヤニ専門店 ビリヤニ大澤 【後編】

日本にビリヤニを広めた立役者であり、ビリヤニのスペシャリストとして確固たる地位を築いた大澤さん。誰よりもビリヤニと向き合いながら、今なおさらなる高みを目指し続けています。後編では、その徹底したビリヤニづくりのこだわりと、「抜群の相性」と話す綿実油について伺いました。

ふわり、パラリとほどける食感のチキンビリヤニ。いくら食べても飽きのこない豊かな香りとうまみのハーモニーが、「ビリヤニ大澤」の真骨頂だ。レギュラーメニューはマトンとチキン。仕入れ状況に応じて、オマール海老や上海蟹、アナグマ、牡蠣など、季節の特別ビリヤニが登場することもある。

科学的に分析し、最高値を求める。

衝撃的な美味しさのビリヤニと出会い、「食べ専」からビリヤニシェフへと転じた大澤さん。「店を出した理由のひとつは、試行回数を増やせること。週に1回より10回試せた方が、10倍早く上達するじゃないですか」。鍋と温度の関係性、食材への影響、香りの変化などを科学的に分析し、“普遍的な美味しさ”へと落とし込む。「以前、炒飯にハマったとき、1日3食炒飯を作り、1週間研究していました。作るたびに上達するのが楽しくて」。それと同じく、大量の食材と向き合うビリヤニづくりは体力勝負でもあるが、「頑張った分だけ上達し、味に反映されるんです。しかも肉体労働の後の賄いが美味しくなるんですよ」と笑う。

「ビリヤニは努力を要する“科学”。積み上げた分だけ確実に高くなるから、楽しいんですよ」。だが自己満足では終わらせない。「料理は人を喜ばせるもの。僕のやる気がある限り、もっと上の美味しさを目指したいですね」。終わりのない探究が、大澤さんを前進させ続けている。

肉と小麦粉、インド料理に一番合う、綿実油。

「僕が目指しているのは、並に美味しいビリヤニではない。金メダルをとりたいんです」。その想いから大澤さんは、考え得るすべての要素を検証してきた。油についても徹底的に調べ、手に入るものはすべて試したという。「その結果、綿実油が最高でした」

ビリヤニは多くの工程で大量の油を使うため、油の質は味の骨格を左右する。「綿実油はコクとうまみがありながら、後味が軽い。フライドオニオンの香りがまったく違って最高でした。肉や小麦粉との相性も抜群で、インド料理に最も合う油だと思います。軽さと奥行き、濃厚な風味は格別で、代替がきかない。日本のこの綿実油にしか出せない味がありますね」

毎日7kgの玉ねぎを1時間以上かけて揚げると、油は甘みやうまみが溶け込んだ極上の味わいの油となる。「この油で焼きそばやカレーうどんを作っても、本当に美味しいんですよ」。続けて肉を揚げたりコンフィしたりするため、油と素材が、さらにうまみをまとったものになる。「ビリヤニ大澤」の味の背景には、この綿実油の存在もあるようだ。「ご家庭でカレーやビリヤニを作る時、綿実油を使うと一層おいしくなります。製菓にもおすすめですよ」と日常でのヒントも教えてくれた。

作業ではなく、成長する日々のプロセス。

仕込みは毎日4〜5時間かけて行う。フライドオニオンを揚げた後にチキンを揚げ、さらにグレービーソースと呼ばれる濃いカレーを、トマトやヨーグルトなどの水分量を見極め調節しながら煮詰めていく。そこへ綿実油でテンパリング(油に香りを移す)したスパイスや肉を加え、香り高いグレービーを大鍋で仕上げる。「スパイスの組み合わせや入れるタイミングで、香りの出方が変わるんです」と大澤さん。

隣のコンロでは、浸水させたバスマティライスを、4つの鍋で時間差管理しながら茹でる。大量の米は一度に引き上げられず茹で加減に差が出るため、鍋を分けることで茹であがりを調整する解決策をとった。タイマーを確認しながら次々と素早く米を大鍋へ加えていく光景は圧巻。「ビリヤニは香りとうまみ、炊き加減が重要なんですよ」

最後に鍋へアルミホイルをかぶせ、温度計で内部温度を確認しながら蒸し上げる。「現地の味を超える美味しさを目指したい。それにはすべての工程を常に洗練させ続けることが大切で、毎日同じことだけをしていたら、それはただの作業。昨日より成長しないとダメなんです」。真剣な眼差しが、その覚悟を物語っていた。

不均一が生み出す、変化とシンフォニー。

いよいよビリヤニが炊きあがると、大澤さんは30キロを超える大鍋を抱え、客席へ運ぶ。蓋を開けた瞬間、白い湯気とともに豊潤な香りが広がり、空気が一変。それまで真剣だった大澤さんの表情が、ふっとゆるむ。「湯気で仕上がり加減が分かるんです。今日のはもう、とんでもないですね!」

この日のメニューはチキンビリヤニ。ひと口含むと複雑な香りが立ち上がり、ふわふわとほどけるような軽い食感に驚く。油っこさはまったく感じない。「炊きたての破壊力、本当にとんでもないんですよ。これをぜひお客さまに食べていただきたくて」。大澤さんが言うように、お米だけでも深い満足感がある。そこへほろほろのお肉が重なり、濃厚なうまみが広がっていく。「二度と同じ味にはならなくて。それがビリヤニの面白さであり、難しさ。だから追求しがいがあるんです」。少年のように「うまい!うまい!」と喜び、無心でビリヤニを頬張る大澤さん。「人を喜ばせるためには、自分が美味しいと思えないものは出したくないですから。うまいものはうまい。それが普遍的なら、誰が食べても美味しいはずなんです」

お皿には、お米の白い部分とスパイスの色が付いた部分がまだらに混ざっている。「均一じゃないからこそ変化が生まれる。甘みやうまみ、酸味が交互に現れ、味に立体感が出るんです。ビリヤニは“香りのオーケストラ”。重なり合う香りが余韻を残すから、また食べたくなるんですよ」。添えられた山椒オイルを垂らせば、味わいはさらに表情を変える。変化は最後のひと口まで続く。食べ終える頃には、自然に次を求めている。

“-3℃のコーラ”という、最高のペアリング。

ビリヤニのうまみと香りを堪能した口の中へ、大澤さんがおすすめするのは、瓶入りのコカ・コーラだ。しかも、わずかに凍りかけたフローズン状態、-3℃が理想だという。「インドでは実際に、ビリヤニとコーラを合わせるのが人気なんです。ビリヤニを食べて口の中にスパイスが蓄積されたところでコーラを飲む。その瞬間が、ご褒美なんですよ。甘みと酸味とスパイスの刺激が、僕は一番合うと思っています」

瓶の冷たさと口当たりも、美味しさを底上げしている。甘さも単体で飲むほど感じられず、スパイスの余韻とともにすっと身体へしみ込んでいく。このペアリングは、「他ではこれほどの感動はない」と断言するほどだ。

本場が認めた至高の味として。

日本にビリヤニの魅力を広めてきた大澤さんの料理と話題は、国内にとどまらず、海を超えて本場にも届いた。インドの有名映画俳優の自宅に招かれ、ビリヤニを振る舞ったこともある。現地でイベントを開催し、ドバイでは限定ポップアップを実施。多くのVIPにも、その味を届けてきた。「噂を聞きつけたドバイ首長国を含むUAE(アラブ首長国連邦)の大統領から注文が入り、デリバリーをさせていただいたこともあります」。思わず耳を疑うようなエピソードだ。
さらに「このたびインドでビリヤニの監修を任されることになりました。とても名誉なことだと思っています」と大澤さん。本場においても、その技と味が評価されている証である。「ビリヤニはとても美味しい料理です。世界中で食べられていますし、日本でも広がってきているので、ぜひ楽しんでいただきたいですね。意外と簡単に作ることもできるので、ご自宅でもぜひチャレンジして、炊きたての美味しさを体験してもらえたら嬉しいです
大澤さんのビリヤニに込められた、科学的探究と尽きることのない情熱。その歩みは、世界へと広がりながら進化を続けている。

オーナーシェフ 大澤 孝将さん

大学時代にインドで出会ったビリヤニの美味しさに衝撃を受け、帰国後、日本ではまだ馴染みがなかったビリヤニの研究を始める。店を貸し切ってのビリヤニパーティ主催、間借りビリヤニ屋店経営、ビリヤニシェアハウスの立ち上げ、インド料理店勤務などを経て、あらゆる角度からビリヤニを探究する。コロナ禍を機に自身と向き合い、2021年8月、ビリヤニ専門店『ビリヤニ大澤』をオープン。開店以来満席が続き、国内外から注目を集める予約困難店となっている。

ビリヤニ専門店  ビリヤニ大澤

住所:東京都千代田区内神田1丁目15-12 サトウビル B1F
営業時間:
【ランチ】1巡目 12:00~/2巡目 13:00~
【ディナー】1巡目 18:45~/2巡目 20:00~
※完全予約制
定休日:不定休(基本的には日曜日、月末1週間)
席数: カウンター10席
ホームページ:https://osawa.biriyani.co.jp
Instagram  : https://www.instagram.com/biriyani.osawa/
X : https://x.com/BiryaniOsawa