「“ごちそう”としての究極を求め続ける、ビリヤニ専門店」

13  ビリヤニ専門店 ビリヤニ大澤 【前編】

2021年のオープン以来、予約は常に満席。近ごろは予約開始からわずか1秒で埋まることもあるほど、国内外から注目を浴びているビリヤニ専門店『ビリヤニ大澤』。東京・神田のビル地下でひっそりと営むこの店のメニューは、ビリヤニ1種類のみ。オーナーシェフの大澤孝将さんがとことん愛し、情熱を注ぎ続けるビリヤニとは何か。そのひと皿に込めた想いを伺いました。

「ビリヤニの最大の魅力は香り」と大澤さん。「米料理ですので、お米の美味しさ、特に炊きたての風味こそが最高の魅力。ぜひ白いお米を味わってほしいですね」と話す。

格別な美味しさを持つ“ごちそう”。

「ビリヤニ」は、インドやパキスタンを代表する“スパイスの炊き込みごはん”。肉、米、スパイスの掛け合わせを極限まで突き詰めたもので、宮廷料理を起源に持ちながら、大衆へと広まった人気の米料理だ。現在では屋台や食堂でも気軽に食べられる存在となったが、結婚式場にビリヤニ店が併設されていることもあるほど、結婚式で人気のメニュー。ビリヤニといえば大量調理のごちそう=めでたい料理であり、国民食でもあるのだ。「日本各地にそれぞれのラーメンがあるように、ビリヤニにも街ごとのスタイルがある。じゃあ、共通概念としてのビリヤニの定義は何だろうと考えたんです」

大澤さんはインド各地やパキスタン、バングラデシュを巡り、ビリヤニを食べ歩いて学んでいった。歴史だけでなく、宗教、民族、地理、言語、文化、経済に至るまで、多角的に研究と考察を重ねた。そして導き出した答えは、「みんなが美味しいものを作ろうと頑張った結果」だという。「ビリヤニは“ごちそう”なんですよ。鰻重やお鮨、焼肉のように“たまに食べるごちそう”だからこそ、格別に美味しいんです」と大澤さんは語る。

米とうまみの芸術に魅せられて。

大澤さんを虜にしたビリヤニとの出会いは、2009年にインドを訪れた時のこと。街中に並ぶ「ビリヤニ」の看板に引き寄せられた。正体も知らぬまま頼んだところ、その美味しさに衝撃を受けたという。「それから毎日探し回って、3週間食べ歩きました」と当時を振り返る。何にそこまで惹きつけられたのか。「今思えば“うまみ”ですね。しかも僕はお米好きだったので、どハマりしました」

帰国後、日本では本場のようなビリヤニを食べることはできなかった。店で尋ねると「貸切にしないと作れない」とのこと。手間と時間がかかり、大鍋で炊かなければ美味しくならない料理で、通常営業の中で提供するのは難しいと次第に理解した。そこでSNSなどで人を募り、店を貸し切ってビリヤニパーティーを重ねた。やがてビリヤニの解像度が上がっていき「美味しいビリヤニとは何か」を真剣に考えるように。「作り方を知る人から教わり、自分でも作れるようになりました。質のいい食材を使い、手間を惜しまなければ理想に近づける。だったら自分で作ろうと思うようになって」。そこから大澤さんの、ビリヤニシェフとしての歩みが始まった。

最高のビリヤニで、人を喜ばせたい。

ビリヤニづくりに夢中になった大澤さんは、人気のインド料理店で働きながら、2012年に店を間借りして「ビリヤニマサラ」をオープン。さらにビリヤニを作るためのシェアハウス「ビリヤニハウス」も立ち上げた。キッチンの広い一軒家を借り、友人たちに振る舞うため、ひたすら大量に作り、ビリヤニと真正面から向き合い続けた。

しかし、コロナ禍で人が集まることが難しくなり、ビリヤニを作る機会も失われることに。すると大澤さんは心身に不調をきたすようになったという。行く先を見失いかけていた時、友人の「お店やればいいじゃん」というひと言が、運命を大きく動かした。それまでの経験から、ビリヤニで店として成立させるのは難しいと考えていたが、シャリが美味しいと教えてもらった鮨屋を訪れ、想いを改めた。「“美味しさのためには労を惜しまず今できること全部やる”という鮨屋の思想に触れ、これならできるかもと考えたんです」。そしてクラウドファンディングで資金の一部を集め、予想をはるかに超える人の応援を受けながら、ビリヤニ専門店『ビリヤニ大澤』を立ち上げたのだ。

“究極”を目指すためのスタイル。

一度にたくさん仕込むほど美味しくなるビリヤニは、手間も設備も必要な料理。多くのコンロを使い、時間も労力も随分かかる。一般的な店舗経営においては、その非効率さがネックとなる。しかも価格設定や回転率、付加的なサービスなども求められるため、両立が難しい。
「それでも“究極のビリヤニ”を作るお店がしたいと思ったんです」。先述の鮨屋から学んだ“美味しさ以外の要素をできるだけ削ぎ落とし、料理に集中する”思想がヒント。原価がかかっても最良の食材を選び、手間をかけきるスタイルの店にする。同時にそれは、高い対価を払ってでもハイレベルなサービスを求めるお客と向き合う“厳しい環境”に身を置くことを意味するのだ。しかし、それが「自身の技術向上にもつながる」と覚悟を決めた。

こうして完全予約制、曜日ごとに一種類のみのビリヤニを提供する専門店を開業。お客さまが揃ってから一斉にスタートし、1日4回、一番美味しい炊きたてを目の前でお届けする。
店内は10席のカウンターが厨房を囲むコの字型。お客さまも目の前のビリヤニに集中できる設計だ。スプーンは味を邪魔しないホーロー製。細部にわたるまであらゆる角度から質を洗練させ、妥協のない味を追求し続ける姿勢こそ、“究極”への近道なのだ。

すべては美味しいビリヤニのために。

大澤さんが作るビリヤニは、その圧倒的な味わいで多くの人の心を掴み、「ビリヤニハウス」時代からすでに絶大な人気を誇っていた。それは「ビリヤニ大澤」の開業後さらに加速し、今や予約困難店として知られ、連日満席が続く。『ミシュランガイド』のビブグルマンにも選ばれ、さらにその知名度が高まった。そのため「全然予約が取れない」とお叱りを受けたこともあるという。

その声に応えるかのように、現在はテイクアウト販売や催事出店、オンラインストアでの冷凍ビリヤニやミールキットの販売も行っている。さらに「家庭で作ってできたてを味わってほしい」と惜しみなくレシピを公開し、本を出版した。「ネットで検索すれば、たくさん出てきますよ」というとおり、情報発信として協力した取材記事や動画も数多くある。

そのすべての根底にあるのは、「最高のビリヤニを食べてもらいたい。ビリヤニで人を喜ばせたい」という真っ直ぐな想い。そこに人生をかけ、情熱を注ぎ続けている。

こだわり抜いた大澤さんのビリヤニづくりと、相性がいいという綿実油について、続きは後半で紹介する。ぜひそちらもお見逃しなく。

オーナーシェフ 大澤 孝将さん

大学時代にインドで出会ったビリヤニの美味しさに衝撃を受け、帰国後、日本ではまだ馴染みがなかったビリヤニの研究を始める。店を貸し切ってのビリヤニパーティ主催、間借りビリヤニ屋店経営、ビリヤニシェアハウスの立ち上げ、インド料理店勤務などを経て、あらゆる角度からビリヤニを探究する。コロナ禍を機に自身と向き合い、2021年8月、ビリヤニ専門店『ビリヤニ大澤』をオープン。開店以来満席が続き、国内外から注目を集める予約困難店となっている。

ビリヤニ専門店  ビリヤニ大澤

住所:東京都千代田区内神田1丁目15-12 サトウビル B1F
営業時間:
【ランチ】1巡目 12:00~/2巡目 13:00~
【ディナー】1巡目 18:45~/2巡目 20:00~
※完全予約制
定休日:不定休(基本的には日曜日、月末1週間)
席数: カウンター10席
ホームページ:https://osawa.biriyani.co.jp
Instagram  : https://www.instagram.com/biriyani.osawa/
X : https://x.com/BiryaniOsawa