09 パンツェロッテリア 【前編】
「パンツェロッティ」という料理をご存じですか?イタリア南部で生まれた“揚げピザ”で、気軽に食べられる軽食として昔から親しまれています。これをスローフードとして味わえるレストランが東京・松濤にあると聞き、訪ねてみました。

異国の気配と温もりが漂う、小さな隠れ家。

渋谷の喧噪から少し離れた、閑静な住宅街・松濤。緑と落ち着いた邸宅が並ぶ街の中に、黄色と白のストライプのファサードが目を引く、異国情緒あふれる店がある。それが、今回ご紹介するパンツェロッティ専門店「パンツェロッテリア」。
開放的なガラス扉を開けると、爽やかなグリーンと白を基調とした明るい店内が広がり、ヨーロッパの街角に迷い込んだような雰囲気。まるで旅先で出会った隠れ家のような高揚感に包まれる。迎えてくれるのは、穏やかな笑顔のオーナー・西正博さんと、4代目看板犬のlol(ロル)。落ち着いた空気とあたたかな人柄に触れた瞬間、ここで過ごす時間が特別なものになる予感がした。
ここでしか味わえない、オリジナルの“包み揚げ料理”。

この店の主役はパンツェロッティ。イタリアではファーストフードとして食べられるが、西さんは「スローフードとしての料理と空間にしたかった」と語る。
その思いを表したかのように、肉、魚、野菜、チーズ、デザート系まで新しい方向性を持ったパンツェロッティ30〜40種が揃い、角煮やシーフードなど斬新な組み合わせも顔を並べる。
どれも素材の相性を考えて西さんが考案したもの。たっぷりの具材を生地で包んで綿実油で揚げることから「うちでは“包み揚げ料理”と呼んでいます」とのこと。外はサクッと、中はジューシーでボリュームもあり、驚くほど油っこさがないのが特徴だ。さらにステーキや魚料理、サラダなど世界各国の料理も並び、家庭料理のようにシンプルでありながら、厳選した素材の良さを存分に味わえる。
世界を巡り、辿り着いた“食”という表現。
なぜ世界の味に精通しているのか尋ねると、「25年間イタリアを拠点に、さまざまな国で食べ歩いてきたから」と西さん。20代からミラノでインテリアやアパレル、バッグの製造など“ものづくり”を最前線で手がけ、ニューヨークやアイルランドにも活躍の場を広げてきた。
多忙な日々の中で軽食から高級料理まで多彩な食を味わい、世界の食文化に触れてきた。自らも料理をするようになると、料理の楽しさに惹かれていった。やがて「イタリアから簡単に持ち出せない業界は何か」と考え、行き着いたのが“食”だった。
そして帰国後、これまでの経験と「一生に一度は自分でレストランをしてみたい」との思いから、日本で誰もやっていない料理として“パンツェロッティ”に挑戦したという。
食事を超えた、心地よい時間。
同店には「食べに来る」だけでなく「過ごしに来る」人も多く、カウンターで自然に会話が生まれるのも日常風景になっている。1人で来る常連客も多く、気づけば隣同士が仲良くなっていることもしばしば。
「報告や日々のたわいもないことなど、話しに来てくださる方も多くて。食事と同時に、リラックスしてゆっくりしていただくのが一番だと思っているので嬉しいですね」。その思いから、料理を出すタイミングも、ヨーロッパ式に“ひと呼吸おいて一皿ずつ”提供することを心がけているそう。インテリアや音楽、灯り、会話が調和した店内はゆったりとした時間が流れ“滞在したくなる場所”そのもの。わざわざ足を運び、また訪れたくなる心地よさがここにはある。

みんなで育み続ける、あたたかな雰囲気。
もうひとつ店の心地よさを支えるのが、落ち着いたミントグリーンの壁。「色も自分で選んで塗ったんですよ」。色の濃さやトーンを調整しながら、西さんはじっくりと自分の手で作りあげていった。
それだけではなく、この店を特別にしているのは、お客さまも“空間を共に作っている”ことにあった。「毎年お盆休みの初日に常連さんが集まって、壁椅子の塗り直しや真鍮の柱磨きを一緒にしてくださるのが恒例行事になっているんです」。少しのムラも店の歴史となり、温度になる。
クリスマスには仮装パーティをして皆で楽しむ。人懐っこい看板犬ロル目当てに来る人も多く、小学生が手紙を書いてくれるほど愛されている。ここは西さんとお客さまが育てる、あたたかな居場所となっているようだ。


このベースにあるお料理の美味しさについて、さらに後編で西さんに伺ったので、ぜひこちらもお楽しみに。

オーナー 西 正博 さん
日本とアメリカの大学を卒業後、就職を経てイタリアの大学でインテリアデザインを学ぶ。その後、アンティークの買い付けから着想を得て、家具や洋服を製造販売するビジネスを立ち上げる。ミラノとニューヨークに店舗・ショールームを構え、両都市を頻繁に行き来しながら日本でも販売を開始。さらにバッグのコレクションを手がけ、たびたび友人を訪ねていたアイルランドに工場を設けて製造を行うなど、活動の場を世界各国へと広げていった。こうした25年におよぶ海外生活の中でさまざまな国の料理を味わった

PANZEROTTERIA(パンツェロッテリア)
住所:東京都渋谷区松濤2丁目14-12 シャンボール松濤1階
電話番号:080-2675-7216
営業時間:18:00〜23:00 (LO 22:00)
定休日:定休日:月曜(祝日の場合は営業)および火曜
席数: 20席
Website:https://panzerotteria.jp/
公式アカウント:https://www.instagram.com/panzerotteria_tokyo/



