12 手打蕎麦 浜町かねこ 【後編】
酒とつまみを楽しみ、蕎麦で締める。そんな江戸蕎麦の伝統的スタイルを、ゆるりと心ゆくまで味わえる、手打蕎麦「浜町かねこ」。後編では、天ぷらの美味しさを陰で支えている綿実油に注目し、その魅力や実感について、金子さんにお話を伺いました。

揚げ玉を作っても、さっぱり美味しい油。
「今では揚げ油は100%綿実油を使っています」という金子さん。修業時代の店でも使用していたことから、独立後も天ぷら油には試行錯誤を重ねたという。かつては胡麻油を合わせることも試したが、仕上がりが重く感じられた。そこで綿実油のみを使うようになると、いい意味でクセがなく、素材の味を素直に引き立てることに気づいたという。
油の状態が分かりやすく、揚げ玉を作っても後味は驚くほどさっぱり。「揚げやすく、カラッと軽い仕上がりになる。天ぷらに最適な油だと思います」。そう語る言葉に、確かな実感がにじむ。
蕎麦の香りを引き立てるために。

天ぷら単体ではガツンと美味しく感じられる油も、繊細な蕎麦と合わせると、その香りが蕎麦の風味を覆ってしまうことがある。「お蕎麦だけ、天ぷらだけを味わうのではなく、どちらも一緒に美味しく食べていただきたい」と語る金子さん。
目指しているのは、天ぷら屋の上質な天ぷらと蕎麦屋の蕎麦を同時に楽しめるもの。そのため、油はクセのない綿実油を選び、衣も薄く仕上げて素材の味を引き立てているという。「天ぷらが軽いとよく言っていただけます」。蕎麦の香りまで存分に楽しめる一杯は、細やかな配慮の積み重ねによって生まれている。
お客さまに委ねる、自由な蕎麦の楽しみ方。
江戸蕎麦には、粋な大人の嗜みといった憧れを抱く人も多い一方で、繊細な食べものであるがゆえ、店ごとに細かなルールを設けるところも少なくない。「一番美味しい状態で味わってほしいという気持ちは分かりますが、『伸びちゃうからすぐ食べて』『喋らないで』などは、うちでは言いたくないんです」。一度提供した料理は、あとはお客さまの自由。思い思いに楽しく食べてほしいという。
「うちの入口や佇まいを見ると入りづらく感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、肩肘張らずに過ごせる店ですので、ぜひ気楽に江戸蕎麦を味わっていただきたいですね」。金子さんのこの想いが余計な緊張感をほどき、「浜町かねこ」の何度も訪れたくなる空気感を形づくっている。

口コミが育てた、もうひとつの名物。

おすすめを尋ねると天ざるが挙がるが、「もうひとつ、カレー蕎麦なんですよ」と金子さんは笑う。もともと看板メニューにするつもりはなかったが、口コミで評判が広がり、今では名物と呼ばれる存在に。バナナやリンゴ、牛すじ肉などを蕎麦出汁でじっくり煮込み、オリジナルのスパイスを加えて仕上げるカレーは、作っている最中から食欲をそそる香りを放つ。さらりとしたスープに、スパイスの辛味と甘み、旨みが溶け合う、他では味わえない一品だ。「こんなにも、うちの名物は“カレー”と言われるとは思っていなかった」と金子さんは不思議がるが、この絶品の香りに惹かれ注文が増えるのも自然な流れだろう。
次世代へと、技と想いをつないで。
取材やテレビ出演などの注目だけでなく、確かな美味しさが人を呼び、口コミで評判は広がっていった。「美味しかった、また来るね」と言われ、本当に再び足を運んでもらえることが何より嬉しいと金子さんは語る。今後について尋ねると「最終的には妻とこぢんまりとした店ができたら」と穏やかに話しつつ、それまでは、店で働く従業員の気持ち次第で、技など継承できるものはしていきたいという。「世代を超えて縦や横のつながりは大切にしていきたいですし、うちから独立してもらい、江戸蕎麦文化引き継ぎたいですね。視野が狭くならないよう、蕎麦だけでなく、いつになっても新しいものに目を向けていたいと思います」
師から受け取った技と想いを、次の世代へと手渡していく。江戸蕎麦の粋な文化と、人を思うまっすぐな心。その両方が、「浜町かねこ」を通して、これからも静かに、そして確かに受け継がれていくのだろう。

店主 金子 泰史 さん
営業職としてサラリーマン生活を送るなかで勤務先の倒産を経験し、「手に職を持ちたい」と飲食の道へ。基礎から改めて学ぶため料理学校に進学し、卒業後は神楽坂にある蕎麦の名店で10年間修行を重ねた。2015年に独立し、手打蕎麦「浜町かねこ」をオープン。修行時代の師匠とは現在も親交があり、師匠の故郷・福島県会津へ蕎麦農家や酒蔵を訪ねる旅を毎年共に続け、蕎麦と日本酒への探究を重ねている。休日は子どもと過ごしたり、趣味の野球観戦を楽しんだりしてリフレッシュ。常連客にも愛され、日々賑わいを見せる店を大切に守り続けている。

浜町かねこ
住所:東京都中央区日本橋浜町3-7-3
電話番号:03-4291-3303
営業時間:
(月)17:00〜20:30 L.O.(月曜日はランチ無し)
(火〜金)11:30〜14:00 L.O./17:00〜20:30L.O.
(土)11:30〜14:30L.O.(土曜日はランチのみ)
定休日:日曜日、祝日
席数: 28席(カウンター8席)
ホームページ:https://www.hamachokaneko.com



