「江戸蕎麦の粋を、日常にひらく店」

12  手打蕎麦 浜町かねこ 【前編】

今回ご紹介するのは、東京・人形町、水天宮、浜町エリアの一角に店を構える手打蕎麦「浜町かねこ」です。香り高い石臼挽きの蕎麦と鮮度抜群の揚げたて天ぷらをカウンターで楽しめることから、老若男女を問わず高い人気を誇る名店。多くの人に愛され続けるその味へのこだわりと想いは、一体どのようなものなのでしょうか。

蕎麦をベストなタイミングで湯がき、湯切りをする独特のリズムに職人技を感じる金子さん。天ぷらもまた、リズミカルかつ手際よく揚げられ、一番美味しい状態の出来たてが、すばやく目の前のカウンターへとサーブされる。

粋な江戸の蕎麦文化を受け継いで。

実は米よりも先に日本へ伝わってきたと言われている蕎麦。さまざまな変化を経て現在のスタイルとなった江戸後期には、庶民の間で蕎麦ブームが起こるほど親しまれていた。そのなかで江戸っ子たちに根づいたのが、蕎麦にまつわる文化や習慣である。なかでも、蕎麦ができあがるのを待つ間の「蕎麦前」は、江戸の食文化を象徴する存在だ。わずかな待ち時間にも、落ち着いて酒とつまみを嗜む。そんな粋な楽しみ方は、江戸っ子らしさとも言えるだろう。

これを今も受け継ぐ店は関東に数多くあるが、「浜町かねこ」もそのひとつ。「天ぷらと手打蕎麦をメインにしたかった」と店主の金子泰史さんが語るこの店は、2015年のオープン以来、江戸の蕎麦文化を現代に伝えながらファンを増やし続けている。

都会の裏路地に佇む、大人の隠れ家。

「この辺りは古から続く店や会社と新しいものが混じり合った、落ち着いた街なんですよ」と金子さん。老舗の名店が軒を連ねる一方で新しいカフェやマンションも増え、情緒と都会的な魅力が共存するエリアだ。近年は“住む街”として若い世代からの人気も高い。

その路地を入った先にある「浜町かねこ」は、大人の隠れ家のような静かな佇まいで、日本の趣と品格を感じさせる。一見入りにくそうに見えても、一度足を運べば、その味と空気感に魅了される人は多い。「ぜひ気軽に来ていただきたいですね。縁もゆかりもない土地でしたが、今はとても気に入っています」。歴史ある街のなかで、新たな物語を刻む一軒である。

“細切り十割”に宿る、技と鮮度。

金子さんが打つ蕎麦に使われるのは、直接契約している茨城の蕎麦農家から仕入れるブランド品種「常陸秋そば」。香りの高さと上品な甘みが特徴で、「蕎麦の産地はいろいろありますが、ここの蕎麦は特に香りが濃厚なんです」と金子さんも語る。その蕎麦の実を店内の石臼で挽き、毎朝、挽きたての十割蕎麦を手打ちしている。

切れやすいとされる十割蕎麦を金子さんは細切りに仕上げているが、高い技術があってこそ。風味豊かで喉ごしは軽やか、それでいてコシもある。「飲んだ後でも食べやすい江戸蕎麦にしたかった」と語るように、そこにはお客さまを思う心が込められている。

出来たてを味わうための、カウンターという答え。

「蕎麦と同様に天ぷらも揚げたてをすぐに味わってもらいたい」。その思いから、店はカウンター形式にこだわった。板場の横には水槽を設け、鮮度の高い活魚や活海老を管理。そこから引き上げた季節の魚介を、すぐに天ぷらとして提供している。夏は稚鮎や鱧、冬は牡蠣や白子、春には筍など旬の野菜も揃う。

これらは豊洲市場で仕入れているが、週に二度は自ら足を運び、その時季に最良のものを見極める。「市場の人と顔見知りになることでいいものを紹介してもらえることがありますし、少しでもコストダウンしてお客さまへ還元できたらと思っています」。限りなく鮮度を大切にする金子さんの思いのすべては、新鮮なものを一番美味しく味わえる“出来たてすぐ”を提供するため。お客さまへの最大の心配りなのだ。

評価が証明する、不動の美味しさ。

蕎麦前の一品料理と日本酒の充実ぶりも、「浜町かねこ」の大きな魅力。もずく酢や板わさといった定番から、ごぼうの醤油漬け、筍の刺身、焼き白子など、季節感あふれる酒肴や旬菜を常時30種類以上用意している。日本酒は酒蔵を訪ねて厳選した福島の地酒を中心に、常時15種類ほどを揃える。

そうした質の高さが評価され、開店以来『ミシュランガイド』のビブグルマンに選ばれ続けてきた。「運が良かっただけ」と金子さんは謙遜するが、海外など遠方からも客足が絶えない事実が、その実力を物語っている。

この美味しさを支えるもうひとつの要素が“油”だ。その秘密は後編で紐解いていく。

店主 金子 泰史 さん

営業職としてサラリーマン生活を送るなかで勤務先の倒産を経験し、「手に職を持ちたい」と飲食の道へ。基礎から改めて学ぶため料理学校に進学し、卒業後は神楽坂にある蕎麦の名店で10年間修行を重ねた。2015年に独立し、手打蕎麦「浜町かねこ」をオープン。修行時代の師匠とは現在も親交があり、師匠の故郷・福島県会津へ蕎麦農家や酒蔵を訪ねる旅を毎年共に続け、蕎麦と日本酒への探究を重ねている。休日は子どもと過ごしたり、趣味の野球観戦を楽しんだりしてリフレッシュ。常連客にも愛され、日々賑わいを見せる店を大切に守り続けている。

浜町かねこ

住所:東京都中央区日本橋浜町3-7-3
電話番号:03-4291-3303
営業時間:
(月)17:00〜20:30 L.O.(月曜日はランチ無し)
(火〜金)11:30〜14:00 L.O./17:00〜20:30L.O.
(土)11:30〜14:30L.O.(土曜日はランチのみ)
定休日:日曜日、祝日
席数: 28席(カウンター8席)
ホームページ:https://www.hamachokaneko.com