06 由比缶詰所 【後編】
社員の熱い声からオリジナルブランド『ホワイトシップ』を復刻させ、極上のツナ缶詰を作り続けている「由比缶詰所」。後編では、おいしさの秘密や綿実油との相性について、取締役営業部長兼企画部長の川島大典さんに教えていただきました。

絶妙な、人の手の技と感覚で。
実際に、ツナ缶詰製造現場を見せていただいた。
日本近海で水揚げされたびん長まぐろはていねいに捌かれ蒸した後、「四つ割り」工程で左右の腹側(雌節)と背側(雄節)の四つに分けられる。その後、皮や骨を取り除き、ライン上に約20人の職人が並ぶ「クリーニング」工程へ。
ここでは細かな骨や血合い肉を、熟練の技で無駄なく削ぎ落とす。
この工程は熟練の技術を要し、「“無駄なく、絶妙に削る”ことが求められる重要な工程」だと川島さんは語る。
新人、中堅、ベテランに分かれてチームで作業し、確認し合いながら品質を守っている。なかには50年以上の経験を持つ職人もいるが、「この技術を持つ人が、今の日本にはほとんどいなくて」とのこと。
こうした貴重な技も、唯一無二のおいしさを生んでいるのだ。

おいしさの中に、安全と安心を重ねて。
まぐろを缶に詰める工程では、機械と職人の連携が欠かせない。特にファンシー缶(塊)では、美しい断面を作るために効率よく身を並び替える技術が求められる。川島さんはそれを「一朝一夕ではなかなかできない職人技」だと語る。
重さが計測され、適正なものが次の工程に進むが、不適切なものは職人の卓越した勘で瞬時に再調整。
その後、油と調味液を自動で注入し、長期保存ができるよう0.05ミリ単位の精度で厳密なチェックを行いながら完全密封。最後に殺菌釜で高温殺菌を行い、X線検査で異物を確認して完成する。
機械化が進む現代でも、重要な部分では職人の技が生かされ、品質と安全が徹底されている。その細やかな作業へのこだわりから安心して食べられる製品が生まれていることに、改めて感動を覚えた。


綿実油だから味わえる、ツナ缶詰本来のおいしさ。
70年以上前に缶詰を作り始めた時から、由比缶詰所では綿実油を使ってきた。
今ではオリーブ油や大豆油の商品も作っているが、変わらず綿実油を使っているワケは?
「加熱に強く、まぐろの風味を損なわずに旨味を引き出す油だからです」と川島さん。さっぱりしているのにコクがあり、素材の良さを最大限に生かす、他にはない油だという。
さらに、由比缶詰所では完成後すぐに出荷せず、約1年間の熟成期間を設けている。「まぐろの旨みが油へにじみ出て、味に一体感が生まれ、まろやかになるんです」。
綿実油はさっぱりしているので、ぜひ旨味が溶け込んだ油ごと味わってほしい。そう話す川島さんたちの妥協しないおいしさへのこだわりと秘密が、ここにもあった。

家族や大切な人が食べるものだから、よりていねいに作る。
「うちの会社は珍しいと思うんですよ」と川島さんは言う。
社員は自社製品を一般の人と同じ値段で買い、子ども夫婦や孫に贈る、ということが当たり前になっているそう。「自分たちが作った商品を家族に食べさせるから、下手なものは作れないと、より真剣でていねいになるんです」。
これは他社ではあまり見られない光景で、社員が自社製品を心から愛し、大切にしている証だ。
家族や大切な人を思い、作ることで、製品に対するモチベーションが高まり、おいしさと品質が保たれている。
『ホワイトシップ』を復活させた時と同じ「自分たちが一番食べたいと思うもの、誇れるものを作りたい」との気持ちが今も根付いているのだ。
「お客さまや社員の期待を裏切らないよう、品質を維持していきたい」と語る川島さんの言葉には、強い使命感がにじんでいた。
新しい価値を生み出し、世代を超えて愛され続けて。
『ホワイトシップ』のロゴやパッケージデザインは、どこか目を引き記憶に残る温かさが込められている。
船を描いたロゴは、輸出時代に使っていたもの。それを復刻時にうまく融合させてラベルをデザインし、今も変わらず使い続けている。
「昔を知っている方からは憧れだったと懐かしがられ、今のツナ缶詰しか知らない方には食べたことのない味わいに新しさを感じてもらえる」と川島さん。
この懐かしさと新しい価値の融合は『ホワイトシップ』印の大きな魅力だ
「ツナ缶詰の油が苦手な方にも『これなら食べられる』と喜ばれますし、小さなお子さまから『これを食べたら他のは食べられない』など言われると嬉しいですね」と川島さんは目尻を下げる。
「食べていただければ違いが分かると思いますので、ぜひ一度食べてみてください」。

世代を超えて、地域を越えて愛されるツナ缶詰の航海は、まだまだ続く。

日本で唯一「桜えび」が水揚げされる駿河湾に面した静岡県清水区由比の街に、1933年(昭和8年)に創業。県の缶詰工場のひとつとしてまぐろやみかんの缶詰を製造し、1948年(昭和23年)に民間企業として「由比缶詰所」を設立。以来、缶詰や瓶詰、レトルト食品の製造・販売を行っている。なかでも昭和初期に作られたオリジナルブランド『ホワイトシップ』の商品は、原料や製法にこだわりを持って作っており、贈り物の定番としても親しまれ、社員をはじめ根強いファンが全国に広がり続けている。市民が選ぶ静岡市逸品「しずおか葵プレミアムAWARD」受賞。メディア掲載も多数。

株式会社由比缶詰所
住所:静岡県静岡市清水区由比429-1
電話番号:0120-272-548
受付および直売所営業時間:8:00~17:00
定休日: 土・日・祝
公式サイト: https://yuican.com
オンラインショップ: https://yuican-shop.com
Facebook:https://www.facebook.com/yuican/