11 旬彩天 つちや 【後編】
日本料理の繊細さと、天ぷらが持つ力強さ。その両方を共存させた会席スタイルで、多くの人を魅了する「旬彩天 つちや」。ミシュランガイドで二つ星を獲得し続けるこの店で、天ぷらの味を陰で支える存在が“綿実油”です。その理由と背景を、土阪さんに伺いました。

ミシュラン二つ星を獲得し続ける緊張感。
世界的評価基準である『ミシュランガイド』。つちやは京都・大阪版の創刊当初から2年連続で一つ星を獲得し、その後、現在に至るまで14年連続二つ星を維持している。だが土阪さんは「嬉しいというよりも、大変なことになったという気持ちが強かった」と振り返る。
最初の星を獲得したのは、店を開いて1年後のことだった。「とにかく毎日必死で、余裕がなかった時期でした」。老舗の名店が評価されない中で自分たちが星を得た重み。「これではダメだなと自分たちに足りないものが明確に見えて、焦りと問題を強く感じました。それを一つずつ埋めていく作業の方が大変でしたね」。そのプレッシャーを原動力に不足を一つずつ埋めてきた姿勢に、料理人としての誠実さがにじむ。

面白くて難しい綿実油。
美味しい天ぷらを揚げるために、構想を伝えた油問屋から「これ一択」と勧められたのが、岡村製油の綿実油だった。早速使ってみたところ「面白い油だ」と感じたという。
「一番美味しく揚がる油でしたが、揚げるのが非常に難しかったんです。それがなぜなのかわからなくて、徹底的に向き合いましたね」。素材や時間を変えながら、揚げ上がりを試す日々。温度調整など、向き合えば向き合うほど難しさが残ったという。「綿実油は衣と油の乳化スピードの関係で技術が求められますが、揚がりはとても軽くて内部の水分を保つので、蒸し焼きのような状態になるんです」。
カリッとしながらも、ふわっとした食感。綿実油のその特性こそが理想の天ぷらを生む鍵であり、「つちやの天ぷらには、この油しかない」と確信したという。
旨みを持ち、旨みを引き出す“旨い油”。
「綿実油は、香りがないのに味がある。舐めても旨味を感じるほど、もともと“旨い油”なんですよ」。そう語る土阪さんは、さらに続ける。
「香り、甘み、旨み、でんぷん感、水分量。それらを最良の状態で引き出せるのが綿実油です。素材の特長を邪魔せず、うまく支えてくれる油なんです」。蓮根ひとつをとっても、土阪さんは生産者を訪ね、天ぷらに最適な品種を選び抜いた素材の魅力を“天ぷらとして”ではなく、「なぜこんなにこの蓮根は美味しいのか」と感じてもらうために、揚げることで加熱する。その役割を果たすのが綿実油だった。「素材の美味しさを最大限に引き出し昇華させる油として、これ以上のものはない」と土阪さんは断言する。


料理より先に、守りたいもの。
店づくりで大切にしていることを尋ねると、返ってきたのは「スタッフの健康」という答えだった。「お客さまファーストであることはもちろんですが、ご満足いただけるサービスのためには、まず働くスタッフが健やかであることが不可欠だと思っています。店が一番しんどいのは、スタッフが欠けた時ですから」。
店主として、後進を育てる立場だからこその言葉でもある。「自分の野心などよりも、今いてくれるスタッフの目標や夢を聞いて、その先の景色を一緒に見られたなら幸せだなと思います」。料理人として、そして店主として成熟した今の土阪さんだからこそ、スタッフの未来を思う“親心”が垣間見える。
海外へ広がる、新たな景色。
今年、つちやは初めて海外での挑戦を経験した。タイ・バンコクの五つ星ホテルで開催された、日本のミシュランシェフによる特別イベントへの参加だ。これまでずっと断ってきたオファーだったが、「一度行ってみよう」と思い、初めて引き受けた。結果は大成功。「まだ秘めている天ぷらの可能性を感じて帰ってきました。海外の方は全身で美味しさを表現してくださるので、こちらの中で眠っていたものが、もう一度呼び覚まされたような感覚があって。日本で良い食材を使い、良い料理をすることがすべてではないんですよね」。環境や条件が異なる海外で、制限を技術で乗り越えていく。その過程もまた、大きな学びになったと笑う。
「またオファーがあれば海外でチャレンジしてみたいですね」。新たな可能性を胸に、つちやはさらに次の景色へと歩み始めている。


店主 土阪 幸彦 さん
幼少期から大工である職人の父に憧れを抱き、高校時代、アルバイト先で目にした鮨職人の包丁捌きの格好良さに心を打たれ、料理の道を志す。調理師専門学校卒業後、割烹やホテルの厨房、和食店などで修行を重ね、スカウトを経て北摂の日本料理店に勤務。料理長として10年間腕を振るう。2008年、大阪・江坂に「旬彩天 つちや」をオープン。日本料理の繊細さとしなやかさ、そして本能に訴えかける天ぷらの力強さを融合させた独自のスタイルで、国内外から高い評価を受ける。世界的に知られるグルメガイド『ミシュランガイド京都・大阪』で、16年連続星を獲得。予約困難な名店として、国内外の人々に愛され続けている。

旬彩天 つちや
住所:大阪府吹田市豊津町41-4
電話番号:06-6338-2288
営業時間:12:00~14:30(最終入店12:30)
18:00~21:30(最終入店19:00)
定休日:日曜日、月曜日の昼
席数: 14席
ホームページ:https://www.shunsaiten-tsuchiya.com



