70年以上愛され続ける、さつまいものお菓子

04  芋菓子匠 嶋屋 【前編】

大阪・天王寺、あべのハルカスから南へのびる商店街の一角に、古くからの歴史を感じる店があります。それが今回ご紹介する、さつまいも一筋のお芋屋さん「嶋屋」。前編では、全国にファンがいる昔ながらの味を、大切に守り続けるこだわりと想いについて伺いました。

店舗では対面販売のみ。店頭に大釜があり、できたての商品はもちろん製造過程もすべて見える。

全国のお客さまから求められる味。

店の前に目をやると、そこに顔を並べているのはできたてのさつまいものお菓子たち。
「一番人気は『阿倍野ポテト』ですね」と教えてくれたのは、代表取締役の佐々木信行さん。「嶋屋」の三代目だ。お話を伺っている間にも、次々とお客さまが訪れるほどの人気店。
大学芋のようで大学芋でない「阿倍野ポテト」は、カットしたさつまいもを綿実油で揚げて秘伝の蜜に漬けたもの。ふっくらと柔らかく、しっとりとした上品な甘さがクセになるおいしさで、たくさんのお客さまを魅了している。
そのファンは有名人にも多く、家庭のおやつはもちろんお土産や差し入れでも重宝されて全国へと広まった。「はるばる東京や九州から買いに来てくださる方もいて、とてもありがたいです」と佐々木さんから感謝の気持ちがあふれる。

70余年も変わらぬおいしさを届けて。

同店の創業は、戦後間もないころ。復員した佐々木さんの祖父は地元香川県ではなく、大阪・阿倍野、現在本店がある場所で商売を始めた。
「焼き芋だけでなく、たこ焼きなどいろいろ売っていたと聞きました」と佐々木さん。
創業時から使っているという年季の入った大きな釜で焼くのは「三嶋焼」。「切ったさつまいもを一晩とちょっと秘伝の調味料に漬けて釜でじっくり蒸し焼きしています。創業当時は静岡県三島市のさつまいもを使っていたみたいで、祖父の名字の「嶋」と合わせて『三嶋焼』と名付けたようです」。
以来70余年、阿倍野の地で多くの人に愛され、昔ながらの味と製法で口福を届け続けている。

時代に合わせた新しい商品も。

焼き芋と「三嶋焼」に加え、昭和30年後半にはオリジナルの名物「阿倍野ポテト」が誕生。さらに20年程前からは、栗きんとんも販売しているそうだ。「年末だけの販売ですが、お正月の縁起物だととても好評で」。
この栗きんとんを考案したのは佐々木さん。丁寧に練り込んだ甘さ控えめの芋餡の中に栗の甘露煮が入っているもので、3日間で5000個が完売した実績を誇る。
「100日ポテトも私が考えました」と教えてくれたのは、見た目は極細の芋けんぴ。「阿倍野ポテト」の特製蜜に塩昆布パウダーの隠し味がアクセントになっている最新の商品だが、これもほぼ毎日完売する人気ぶりだ。
変わらぬ味を受け継ぎながら時代に合わせて新商品が登場しているのも、同店が愛され続ける秘訣なのだろう。

包装紙まで楽しめるオリジナリティ。

「阿倍野ポテト」を購入すると、まず目がいくのは包装紙。手書き風の大きな文字で文章が書かれている。

「大阪あべのへきはったら うちのイモ食べてみてくれまっか チンチンと蒸して焼いたのと蜜につけたのんと2種類しかおませんが、どちらさんにもこりゃうまい!と云うてもらえる味でおます。(一部抜粋)」

コテコテの大阪弁でのメッセージ。
「先代がデザイン会社に作ってもらったものなんですけど、当時は斬新だったんですよ」と佐々木さん。「今どきではないのかもだけど、うちのことが分かってもらいやすいのかな」との思いから使い続けているという。
この親しみやすい包装紙も「読むだけでも楽しい」と人気のひとつ。ていねいに、真摯に商品とお客さまへ向き合っている気持ちも一緒に包んでいるかのようだ。

思いを込めて一つひとつ手づくりで。

長年の店を守るため、お客さまへおいしさをお届けするため、決して手を抜かないのが同店のこだわり。「全部手作業で作っていますし、当日調理したものを販売しているので新鮮なのがうちの特徴です」。
さつまいもを一つひとつ丁寧に洗い、「阿倍野ポテト」は皮をむいて太めにカット。「もう慣れですね」と佐々木さんはリズミカルに軽々と切っていくが、それは熟練のなせる技。
各店舗でそれぞれが手作業をするため、切り方から揚げ方までマニュアル化もしながら同じ味と品質が保てるよう徹底指導している。

後編では、その味を支える綿実油の魅力についてご紹介するので、こちらもお楽しみに。

店長 嶋屋三代目  佐々木信行 さん

幼い頃から祖父や父が「嶋屋」を営む背中を見て育つ。朝ご飯やおやつで「嶋屋」の商品を食べることが日常だったこともあり、この店を守っていきたいと、いつしか継ぐことを考えるように。学生時代にアルバイトとして手伝いはじめ、卒業と同時に入社。各店舗での販売や製造を行う傍ら、Windows98の導入とともにいち早く会社のホームページを自ら立ち上げ、需要が高まった地方発送に対応する。2003年には楽天市場店をオープン。数年前に代表取締役を就任し、三代目として店の舵をとっている。

芋菓子匠 嶋屋

住所:大阪市阿倍野区阿倍野筋2-4-37
電話番号:06-6621-7167
営業時間:9:30~20:00(本店)
定休日: 年中無休(本店)
※テイクアウト専門店
※天王寺ミオ店、阪急梅田店、天下茶屋店、堺タカシマヤ店も有り
公式サイト: http://simaya.com/