03 天ぷら 永春 【前編】
シリーズ第3回は、京都御所の近くにある天ぷら専門店「永春」です。
店主の永井さんによる職人技と探究心で味を進化させ続け、そのおいしさは口コミで広まり、リピーターも増えています。前半では、天ぷらに向かう熱心な姿勢と想いについてお話を伺いました。

コロナ禍だからこそできた、素材と技術の追求。
2019年に目標としていた独立を果たし、自分の店をオープンさせた「永春」の店主・永井雅基さん。開店から半年を過ぎた頃にコロナ禍となり、思うように営業できない日が増えた。
「でも冷静に天ぷらや素材を見直したり試したりする時間ができて、技術の向上になったのかなと思います」と当時を振り返る。
知り合いを通じ、日本トップクラスの名店へ勉強しにも行った。
その時に出会ったのが、現在の天ぷら業界で最先端・最高峰とも言われる知恵と技の数々。教わってからはそれを再現できるよう、さらに試行錯誤を重ねた。
ここから「永春」の味が格段にアップしたことは言うまでもない。
達人に学びいきついた、−60度の衣。
お店の特徴を尋ねると、「-60度の冷凍庫と上質な綿実油を使った最先端の天ぷらです」とのこと。そこまで強力な冷凍庫が必要なワケとは?
「小麦粉を凍らせるためです。この温度だといい具合に乾燥して水分が抜けるし、衣の温度も下がってグルテンが抑えられるので性能がすごく良くなるんです」。
これまでは高温をキープして揚げるのが一般的で、衣はガリガリになりがちだった。しかし-60度の粉を使うと「素早く衣が固まって、その後は温度を下げて火を入れても衣はダメージを受けず、適度な脱水と旨味のある理想の状態ができる」のだそう。
達人から学んだこの手法で、サクッと軽い衣と絶妙な食感、旨味のバランスがとれた天ぷらが完成した。

天ぷらと真摯に対峙し、進化させ続けて。
天ぷらはシンプルな料理だからこそ奥が深い。衣の食感と具材の火入れ、最大限に旨味を引き出す脱水のバランスをいかに作っていくかが、職人の腕の見せどころ。
通常の方法だと原理的にこれらは同時に成立できないが、「-60度の衣ならすべてのバランスが完璧に近いものが実現できるんです」と永井さん。
さらなる高みを目指し、粉の振るい方や気泡の大きさ、切り方と味の関係や素材の熟成の状態、素材によって変わる温度と時間など、理想へ近づけるために、まるで科学の世界のような細やかな研究を真剣にしていく日々。
これまでのイメージを変えるほどの永井さんの天ぷらに、舌鼓を打つ人は後を絶たない。


天ぷらとしておいしい食材を、最高な状態で。
イチオシメニューは、京都で馴染みの深い「甘鯛」。
「地域的な食文化としても重要なネタなのかなと。鱗が柔らかいので鱗と衣、身の3つの食感が同時に楽しめますから」。揚げていると、ふわ〜っと細かい泡から大きな泡へ、高い音から低い音へと変化する。
温度はもちろん音と泡、香りの変化がベストバランスの見極めになる。揚げたての甘鯛は鱗が美しく立って、もはや芸術作品。
サクサクと軽く衣も口で溶けていくような細やかさなのに、身はとてもふわふわ。鰹節などから丁寧にとられた天つゆにつけると、程よいジューシーさが加わって、驚きにも近い感動が訪れる。
永井さんの職人技が冴える逸品だ。

京都の味が世界にも広がるように。
「市場こそが一番の産直」とのことから、京都の市場で手に入る食材にこだわっているという永井さん。
魚屋に毎日足を運んで関係を深めていった。「おかげで食材がない時や困った時でも、魚屋さんから提案をしてもらえるので助かっています」
また土地柄から外国人客も多く、観光シーズンには3割ほどを占めるそう。
「天ぷらを初めて食べられる方にも、うちで楽しんでいただけるのは嬉しいですね」。京都では専門店が珍しいほど、他の地域より天ぷらが根付いていない。
「日本の食を世界の人に知っていただけることにもつながるので、京都らしい天ぷら文化を作っていけたら」と夢は広がる。
後半では、綿実油の魅力を教えていただいたので、ぜひこちらもお見逃しなく。

店主 永井 雅基 さん
飲食の世界に入った後、天ぷら職人になるべく縁のあった京都の名店で修業。別の手法も習得するために2軒目の店でさらに修行を重ね、ミシュランで星を獲得した海鮮居酒屋でも他の料理や開業の仕方などを学び、2019年、32歳の時に天ぷら専門店「永春」を創業。「-60度の衣」に出会い取り入れた後も、さらなる理想の天ぷらをめざして試行錯誤と熱心な探究を続けている。休日は子煩悩な父としての顔も。昼は気軽に楽しめる定食を、夜は季節の味わいが堪能できるコース料理を提供している。

天ぷら 永春
住所:京都市中京区堺町通二条上ル亀屋町167-1 デュビュイ亀屋ビル1階
電話番号:080-3767-7500
営業時間:12:00~14:00、18:00~22:00
定休日: 不定休
席数: 8席(カウンターのみ)
公式アカウント: https://www.instagram.com/tempura_eisyun/